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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)23号 判決 1981年9月28日

控訴人(原告) 今井ミヤ 外一名

被控訴人(被告) 新潟市建築主事 新潟市建築審査会

主文

原判決中被控訴人新潟市建築主事に対する訴えを却下した部分を取り消す。

右訴えにかかる事件を新潟地方裁判所に差戻す。

控訴人らのその余の控訴を棄却する。

第一、二審訴訟費用中、被控訴人新潟市建築審査会に生じた分は、控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を取消す。

(二)  本件を新潟地方裁判所に差戻す。

との判決

2  被控訴人ら

控訴棄却の判決

二  主張並びに証拠関係

原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人らの被控訴人建築主事に対する訴えの適否について考える。

行政事件訴訟法第八条第一項、建築基準法第九六条、第九四条第一項によれば、市町村建築主事のなした建築確認の取消しの訴えは、該確認についての審査請求に対する該市町村建築審査会の「裁決を経た後」でなければできないとされ、また行政不服審査法第一四条第一項本文によれば、審査請求は処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六〇日以内にしなければならないとされている。そこで審査請求が右の期間経過後にされたものであるときは、同法第四〇条第一項により審査庁は右審査請求を不適法として却下する旨の裁決をすることになるが、この場合は、行訴法及び建築基準法の前記各規定にいう「裁決を経た後」に該らないことは明らかである。もしそうでないとすれば、取消しの訴えを起こそうとする原告は、自分の好きなときに審査請求を申立て、却下の裁決を得てから裁判所に出訴しうることとなり、その不合理なことはいうまでもない。また審査請求が法定の期間内になされたのに、審査庁がこれを期間経過後になされたものとして不適法却下の裁決をした場合には「裁決を経た後」に該ることは明らかである。もしそうでないとしたら、審査請求人に司法審査の機会を与えるか否かは、別途、裁決が取消されない限り、行政庁たる審査庁の任意に委ねられていることになり、これまた不合理であることはいうまでもない。それ故、審査請求が法定期間経過後のそれであることを理由として審査庁により不適法却下の裁決がなされたが、原処分取消しの訴えにおいて右期間遵守の有無、従つて裁決の当否について当事者間に争いがあるときは、この点につき審理判断をしたうえでなければ右取消しの訴えが「裁決を経た後」に提起されたものであるか否かを決定することはできない道理である。

ところで、本件建築確認は、被控訴人主事によつて昭和五三年一一月三〇日になされ、控訴人らは同五四年五月二日被控訴人審査会に対し右確認につき審査請求を申立て、同被控訴人は同年六月一二日右審査請求が法定期間経過後になされたものであることを理由に不適法却下の裁決をしたことは当事者間に争いがなく、さらに控訴人らが同年八月九日新潟地方裁判所に原処分たる建築確認の取消しの訴えを提起したこと及び控訴人らが、本訴において、控訴人らの本件確認を了知した日時は同年三月三日であり、本件審査請求は法定の期間内になされた適法なそれであつたと主張していることは訴訟上明らかである。それ故本件においてもまず被控訴人審査会のなした裁決の当否について審理判断したうえでなければ訴えの適否を決しがたいところ、原審はこれと異なる見解に立つて、裁決の内容が審査請求が法定期間後になされたことを理由とする不適法却下であつたことの一事をもつて本訴を不適法と断定したものであり、ひつきよう法令の解釈を誤り、延いて審理不尽の違法を犯したものといわざるをえない。

それ故、原判決中右訴えに関する部分はこれを取消し、事件を新潟地方裁判所に差戻すべきものである。

二  控訴人らの被控訴人審査会に対する訴えについての当裁判所の判断は、原判決中に示された原審のそれと同一であるから、これを引用する。

三  よつて行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八六条、第三八八条、第三八四条第一項、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石川義夫 寺澤光子 原島克己)

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